アセトン(1)一般的性質1/3

溶剤の中で、ネイル関係の方々が最も関心をお持ちなのが、アセトンかと思います。

アセトンフリーの商材が続々と増えてきていることが、即ちユーザー、そして現場での関心の高まり、さらには要求の高まりを示していると考えられます。

アセトンに関しては、既に、多くの方々が、様々なタイミングで勉強されていらっしゃることと思います。特に、安全、衛生の観点からの勉強が主ではなかったのでは、と推察致します。
この安全、衛生に関しての理解をさらに一段深めて頂く上で、多少本質的な部分でも”知っておいて損はない”という部分も含めて、説明させて頂こうと思います。

 

 

 

(引用:関東化学HP、カタログシステム内、写真を拝借)

一般的に、アセトンに関して実感頂ける性質としては、
・無色透明
・揮発性が高い
・水より軽い
・水にも油にも混ざる
・安い
等が挙げられるのではないでしょうか。

これらの性質について、もう少し深堀りをして参ります。(3回に分けて行います)

 

【1】 無色透明

アセトンは、ご存知の通り、一見、水のように無色透明です。

まず、「無色」についてです。

これは、アセトンが、可視光線の波長範囲(400~800nm)では、光の吸収がないことが原因になります。


参考: 物質の色は、人間の目の感度が、波長約400~800nmの光に限定されている関係上、波長約400~800nmの光、つまり可視光線のどの波長の光をその物質が吸収するかによって決まります。吸収された光以外の光が反射されて人間の目に到達して、人間は色を認識することができます。


念のために、紫外線(=UV光)、可視光線、赤外線(=IR光)の範囲を、さらに、UV-A、UV-B、UV-Cの範囲を以下に示しておきます。

(引用:https://www.kose.co.jp/jp/ja/kirei/uv-care/step1/

次に、「透明」についてです。
特に目立っては、可視光線が散乱や反射を起こすような状態、例えば、微粒子状になっている等、がないことが原因になります。仮に、そのような状態が形成されているために可視光線の透過具合が変化した場合には、透明ではなくなり、例えば、曇りや、白濁等が見られる可能性が出てきます。


参考: 水滴自体は(無色)透明ですが、水滴の集まりの雲が白いのは、この理由によります。雲の外から入った光は、各水滴の表面や裏面で散乱や反射を繰り返し、雲を通り抜けてくる光の量が変わってしまい、不透明になってしまうのです。


 

アセトン分子の構造式は下図で示す通りです。

構造式からも、可視光を吸収する部分がないこと、また一方、特別な構造、例えば微粒子等の大きな凝集体を作るであろう等を示す部分がないことが分かります。

実際の測定データを見てみましょう。

(引用:http://www.masterorganicchemistry.com/2016/09/26/uv-vis-spectroscopy-absorbance-of-carbonyls/

横軸は光の吸収波長、縦軸は吸収強度を示しています。
アセトンは、195nmと274nmの2か所にピークとする吸収が見られます。この図では便宜的に横軸が190~293程度nmの範囲に制限されていますが、基本的には、これ以外の範囲には吸収はありません。つまり、400~800nmの可視光域には吸収が見られません。


参考: 274nm付近の吸収は、上記アセトンの構造式中にあったC=Oという部分におけるUV吸収を示しています。C=Oという部分は、特殊な電子の分布状態をしており、その状態に見合ったエネルギーの光を吸収することができるのです。
因みに、274nmはUV-Cの範囲になります。つまり、アセトンはUV-AやUV-Bは吸収されずに透過してしまうということが分かります。


ところで、水のように無色透明ということは、様々な物質を溶かし込むための溶剤として適する非常に重要なポイントと言えます。
例えば、ある物質の、アセトンへ溶かす前の色と、溶かした後の溶液の色とが大きく異なると、感覚的に違和感を持ってしまいます。慣れてしまえばそれまでかもしれませんが、変わらないに越したことはないのではないでしょうか。
溶かし込んだ物質の本来の色に影響を与えないことは、溶剤には欠かせない性質です。もちろん、意図して変色を狙う場合は別ですが。


参考: 厳密に言えば、アセトンへ溶かし込んだ物質に対して、アセトン分子から電子的な作用を及ぼすことで、その物質固有の色を多少は変える影響を与えることは往々にしてあります。ここでは、そのケースには敢えて触れていません。